Wakiya 脇屋友詞 伝統と創作

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中国茶の沼

台湾で中国茶に魅せられた僕は、お茶の産地を訪ね歩くため中国大陸へ向かった。

中国茶は、発酵度や製法の違いによって、白茶、黄茶、緑茶、青茶、紅茶、黒茶(6大茶類)、プラス花茶に分類され、それぞれの香りや味わいがある。実は全て合わせると何千種類もあるといろいろな方に聞き、段々とのめり込んでいってしまった。骨董屋さんに入れば、まずは茶器や茶壺に目が行く。中でも黒光りしている茶壺は、とても高い。なぜかと聞くと、青茶専用で長年繰り返し茶葉を入れて使われたことで、お湯をさしただけで青茶の香りがするという。興味が湧き、いっそ窯元に行ってみようということになった。

はるばる列車を乗り継ぎ訪ねた江蘇省宜興市は、窯業が盛んで陶都として知られる。まずは昼の休憩をと入った店では、あっという間に10皿以上の料理がテーブルいっぱいに並んだ。通訳ガイドが「お茶をください」というと、小姐(今でいうと服務員)が手際よくお茶を淹れてくれる。中国大陸では台湾で飲んだお茶と全く違い、その60%が緑茶である。街でタクシーに乗ると、よく運転手が透き通った魔法瓶のような物から緑茶を飲んでいた。日本でいう緑茶はお湯をさし、すぐに注ぎ切って飲むが、中国ではある程度時間をおくことで味と香りを出す。淹れて忘れたころに飲むのが美味しいのである。

お腹がいっぱいになり、ご飯の後のお茶も格別。早く茶器を見たい! と有名な茶器店に向かう。ドアを開けるやいなや50坪くらいの店内の棚にギッシリと並ぶいろいろな色、形の茶壺が目に入った。宝の山を見つけたぞー!と心の中で叫ぶ。値段を聞くとその安さにもう一度びっくり。そこでガイドが耳打ちする。「茶器にもピンからキリまである。本当はダメだけど、注ぎ口から息をふーっと吹き込んでみて」。注ぎ口に布を巻き、ふーっと息を吹き込むと蓋がふわっと浮き上がる。中には浮かない物もあり、それは空気が漏れている証拠、あまり良い物ではないそうだ。ベテランが作ったものは蓋が浮き上がる。店員の目を盗みながら30個くらいやっただろうか。そうして選んだ茶器100個、さらに絞って50個。

それからも度々宜興を訪れているうちに、ある雑誌社から「脇屋友詞が行く宜興の街」という特集をやらないかと話をいただいた。嬉しくて嬉しくてさらにお茶が好きになってしまった。そしてなんと!! NHKの教養番組『趣味悠々』で中国茶を紹介して欲しいと依頼が来たのである。「中国茶の楽しみ」と題し、あの素敵な水野真紀さんと番組に出演させていただくことになった。大好きな中国茶の話でもカメラの前では難しく、何度もNGを出してはやり直し。そんな僕を水野さんが優しくフォローしてくださったのを思い出す。

お茶が好きになって時間もお金もずいぶん使ったが、その投資が人や素晴らしい作品との出会い、仕事にも繋がっている。自分に投資をしてこそ花が咲く。種から芽が出て、そこに肥料や水を十分に与えるときれいな花が咲き、やがて実がなる。自然の摂理は人間にもあてはまる。この仕事をして心底感じることだ。

「味の手帖」(2021年11月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ

 

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