Wakiya 脇屋友詞 伝統と創作

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ようこそ中国茶の世界へ

僕が初めて中国茶に魅せられたのは35年ほど前、本場台湾で烏龍茶を飲んだ時のことである。

食事の後にいただいたそのお茶は香り高く、のど元へ落ちた瞬間今までに感じたことの無い爽快感が走った。まさに目から鱗とはこのことで、「今まで飲んでいた中国茶は何だったのか!?」と思うほど衝撃的な体験だったのである。僕が修業を始めた頃、日本の中国料理店で出されているお茶といえばジャスミン茶か、色あせたような黒い烏龍茶がほとんどだったように思う。

台湾に中国茶専門店のオーナーで沈先生という方がいて、ご自宅に招いていただいた時のこと。部屋には鳥かごが吊るしてあり、ピーヒョロピーヒョロと美しい小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
先生のお茶を淹れる作法を見ていると、ままごとで使うような小さな茶壺(急須)と茶器にお湯を入れて温める。その茶壺に茶葉を入れ、熱々のお湯を注ぎこむ。お湯をふわっと溢れさせてから蓋をして茶葉を蒸らす。
目の前には細長い聞香杯という茶杯と、日本酒のお猪口のような平たい茶杯がある。先生はそれらもお湯で温めながら、このお茶はどこどこで採れて…とか、お茶は香りから甘味、甘味から渋味に変わっていく…とか話してくれる。話をしながら、小さな茶壺から茶海(お茶の濃さと温度を均一にするための片口のようなもの)に最後の一滴までお茶を移していく。その美しいしぐさには、お茶を本当に大切にする気持ちが表れている。
その茶海から細長い聞香杯に注ぐ。聞香杯に注いだあと、先生は「平たい茶杯の方へ移してください。そして空になった聞香杯を鼻に近づけて香りをかいでみてください」とおっしゃる。促されるままに鼻に近づけてみると、おおッと声が出そうなくらい甘くて清々しく、まるで森林を歩いているような香りである。その香りをいただいてから小さな杯のお茶を口にスッと流し込む。舌の上で茶液を転がすようにしてひゅうっと飲めば頭に電流が走ったかのような感覚。心地よい小鳥の鳴き声が聞こえ、思わず深呼吸すると、自然に体がリラックスする。僕が中国茶に魅せられたのはこの衝撃からだ。

その時を機に、お茶はさることながら茶器、茶壺、茶海といったいろいろな道具があることを知った。凝り性の僕、脇屋友詞は、急に居ても立ってもいられず器が欲しくなり、茶葉が欲しくなり。なんとまぁお金が無い20代の頃に何十万円という買い物をしてしまった。
でもこのお金の使い方は決して無駄ではなく、自分自身への投資、この投資が後に花を咲かせることになる。このお話は、また次回の楽しみに。

「味の手帖」(2021年10月号掲載)
イラスト=藤枝リュウジ

 

 

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